コラム
幅広い音色、ダイナミックなアレンジ、豊かな響き、すべてを表現することができるピアノは世界中で愛されており、高価なものになると装飾品にもなります。
ピアノを趣味として弾いている方も多いでしょう。ピアノはとてもデリケートな楽器のため、定期的なメンテナンスが必要です。そのなかで、鍵盤の重さにお悩みの方もいらっしゃいます。
ピアノの鍵盤は、電子ピアノやエレクトーンよりも重いといわれています。この重さがしっくりくる方もいれば、重くて指が動かしづらいと感じる方もいます。また最近ちょっと重く感じる、という変化が気になる方もいるでしょう。
今回はピアノの鍵盤の重さをテーマにしてみました。鍵盤が重い理由から重さの変え方など、気になる情報をまとめています。ぜひ最後までご覧になってください。
ピアノの鍵盤が重いと感じる方もいるでしょう。軽い方が弾きやすいので軽くしたいと思う方もいれば、重い方が弾きやすい方、それぞれ好みがあります。ここでは鍵盤が重いことはよくないのか、重くなる理由はなにかについて解説します。
結論からいうとダメではありません。しかし重すぎるのはよくありません。鍵盤の動きが悪いと、強い力を必要とします。細い指先10本で、ずっと負荷を与えていれば、そのうち指が痛くなります。
では軽い方がいいの?となりますがそれもまた違ってきます。軽いというのはミスタッチが増えます。鍵盤が軽い分、間違った隣の鍵盤に軽く触れるだけでも鍵盤が沈み、音が鳴ります。そして指が軽い分、ついつい早く弾きすぎてミスタッチをする可能性が増えます。
ある程度の重さがあれば、軽く触れても鍵盤が沈まないので間違った隣の音が鳴ることはありません。また早く弾きすぎることもありません。
もちろん早い曲調によっては、軽い方が、指が軽やかに動くので弾きやすい面もありますが、総合して考えると適度な重さが一番よいでしょう。
ピアノな繊細な楽器のため、湿度の微妙な変化で影響を受けやすいです。
梅雨の時期や冬の暖房を使う時期には、湿度や結露でピアノ内部のフェルト部分や木製部分が膨張してしまいます。ピアノの湿気が高いと、ホコリもつきやすく、サビやすくもなり、引っかかりの原因にもなります。
乾燥すれば自然に解消されることもありますが、そのまま不具合につながるケースも珍しくありません。引っかかりが出ると、指で押したときに余分な力が加わり重く感じられます。
また「グランドピアノ」は「アップライトピアノ」よりタッチが重い、と感じる方が多いようです。これは指で鍵盤を押したときに、鍵盤が上へ戻る「ドロップ」と呼ばれる抵抗の範囲がグランドピアノの方が、狭いため重く感じられるのです。
その他の理由として、思い込みがあります。これを聞いてびっくりされる方もいるでしょうが、実際にグランドピアノ、電子ピアノ、エレクトーンの3種で鍵盤に重りを乗せて、何グラムで鍵盤が下に沈むかの実験をした結果があります。グランドピアノが一番重くて、エレクトーンが一番軽いと思われがちですが、結果として、電子ピアノが一番重く、一番軽いのがグランドピアノでした。
鍵盤を押すときに指にどれだけ力を加えているかというと、電卓を叩く、パソコンのキーボードを叩くのと同じくらいです。そう思うと、重いという言葉もちょっと不思議に感じられます。洗脳というと大袈裟ですが、人の思い込みで本当の重さよりもよけい重く感じてしまうこともあるようです。
鍵盤の重さは、多少は変えられるため一般的な重さ(約50グラム)よりも気持ち重めに調整されているピアノがあることは事実です。重いから弾きにくい、と感じたら、弾く姿勢や椅子の高さを調節することで指や体全体が動きやすくなるので好みに合うポイントを見つけてみてください。
鍵盤が最近スムーズに動かないなど、気になることはありませんか?ピアノは経年劣化するためメンテナンスが必要です。ここでは自分でできるセルフチェックの方法をお伝えします。これでどこか不具合が見つかったときは専門家による調律と整調をしたほうがいいでしょう。
・上下
まずは鍵盤の上下の動きから見てみましょう。鍵盤1本を指で少し持ち上げてください。だいたい1ミリほど上へあがります。(黒鍵盤は左右に余裕があるので指でつまんでもらってかまいません。)
上へ上がった鍵盤から、そっと指を離しましょう。すると自然に下へ下がり、元の位置へ戻ります。このとき鍵盤が上へ上がったまま、元に戻らないときは、鍵盤と接触している内部のピンに汚れやサビが付着し、摩擦が大きくなっていることが考えられます。摩擦が大きくなると、動きが鈍く鍵盤の戻りが遅くなります。
・左右
上下の鍵盤の次は、左右の動きを見ます。鍵盤を下に沈めた状態で、左右に動かしてください。コツコツ当たる感触があることがよいのですが、もし左右の余裕がない、左右に動きすぎるときは調整が必要です。もったりしたタッチ、締りのないタッチになる原因で、ひどいときは鍵盤が元に戻らないこともあります。
グランドピアノの中を見てみてください。弦の上にある黒いパーツがダンパーで、その下にある白いパーツがハンマーです。ピアノは、この2つのパーツの役割が弾き心地に大きく関係しています。弦を叩いて、音を鳴らすのがハンマー、その弦の振動を止めるのがダンパーです。
鍵盤を1本、下に沈めて音を鳴らします。そのままゆっくり指を上へ上げていくと音が消えるポイントがあります。そこが弦とダンパーが接触する位置です。(ポイント1とします)
次に通常の状態から、鍵盤を下に沈めてください。さっきのポイント1の位置あたりで指先に引っかかるような抵抗を感じるはずです。ここがダンパー掛かりの位置です。
掛かりのポイントはピアノによって多少違いはありますが、変更ができます。引っかかりの抵抗感がすぐ感じたときは、調整で引き心地が軽くなります。また、重くしたいときは掛かりのポイントを早めることで弾き応えがあるようにできます。
鍵盤が沈む重さ(ダウンウエイト)を調べてみましょう。身近にあるもので簡単に調べられます。それは10円玉です。10円玉1枚の重さが4.5グラムです。鍵盤の重さは一般的に50グラムに設計されています。もちろんメーカーなどにより、47グラムや55グラムのピアノもありますが、現在普及されている多くは50グラムで作られています。
鍵盤の上に、10円玉を10枚重ねてください。これで鍵盤が沈むようならタッチは軽めとわかります。12枚重ねても動かないようならタッチが重めです。11枚だと一般的なタッチの重さでしょう。
ダウンウエイトの次は、鍵盤の戻り(アップウエイト)を調べます。沈めた鍵盤に10円玉を乗せて、自力で戻ってくる重さを測ります。10円玉4枚で上へ上がってくるなら一般的ですが、5枚乗せても上へ上がってこないなら弾きづらいタッチとなります。
※ウエイトを調べるときは、右ペダルを踏んでください。ペダルを踏むことでダンパー掛かりの負荷を鍵盤から取り除けるため、純粋なダンパー掛かりを調べられます。
ピアノを弾いていて、どうしても鍵盤が重く弾きにくい、滑らかな動きができないというときは重さを軽くしてみましょう。変える必要性と、変える方法、それぞれを解説します。
ご自分に合っていない重さであれば変える必要があります。
たとえば、重い鍵盤でも簡単に弾けてしまうようなパワーがある方なら、軽い鍵盤では弾きにくく不向きでしょう。軽い鍵盤はハンマーも軽いものが使用されているので、摩擦も激しく消耗します。
お子さまや女性はパワーが弱く、重い鍵盤では指を痛めてしまったり、なかなか思うようにタッチできなければストレスもたまります。せっかくのピアノが楽しくないのは困るのでこういう場合は、軽めに変えることがよいでしょう。
鍵盤を押すと、中のハンマーが弦を打ちます。この動きをピアノの専門用語でアクションといいます。鍵盤の重さと押したときの重さ、両方のバランスを計算し、鍵盤からアクションまでを調整することをタッチウエイトマネジメントといいます。
タッチウエイトとは鍵盤の重さですが、人によって体格も違えばパワーも違い、また奏でる曲調、テクニックによっても弾き手の感じ方が変わります。
タッチウエイトマネジメントは、最初にピアノが今どのような状態かを知るために鍵盤からアクションまでのデータを測ります。そのデータから、問題点や解決策をシミュレーションして、具体的な調節をしていくことで、弾き手が求める一番よいタッチになるよう、手を加えていきます。
グランドピアノ専用のツールで、重い鍵盤を簡単に軽くすることができます。元の鍵盤押さえと置き換えるだけの作業なのでお手軽です。
鍵盤には、ひとつひとつにピンが2本刺してあります。そのうちの真ん中、バランスピンに真横に走っている木製のレールが「鍵盤押さえ」です。この鍵盤押さえを、タッチレールに置き換えることでタッチが軽くなります。
タッチレールは、手軽さゆえ穴を開けたり、削ったりとピアノへ負担をかけないのでいつでも、元のピアノへと戻せます。またタッチレールを取り付けた後は、微妙な調整もできます。
鍵盤の重さを軽くするための調整といえば、これまでは鉛を追加することが一般的なやり方でした。この方法は、鍵盤から不要な鉛を抜いて、埋め木をしてから新しく穴を開け、鉛を追加するなど工程が複雑で大掛かりな作業で時間もかかりました。
また、ハンマー交換をしたときも鉛調整をやり直すことがありました。その場合、鉛の位置を変更するためピアノを工房で預かるなど手間のかかる作業でした。
どんなに一生懸命練習をしても鍵盤のタッチが狂っていては意味がありません。鍵盤の調整が不十分では、うまく指先のコントロールがききません。繊細なテクニックにより、幅広いメロディーや表現ができるピアノの良さをいかすためには弾きやすいことが前提です。
それには調律がかかせません。
イメージ通りに表現ができないときは弾き手のテクニックが問題なのではなく、ピアノのコンディションに原因がある可能性もあります。ピアノの上達を目指すなら、コンディションのよいピアノで、繊細な音を聞き分けながら練習をすることです。
最低でも年に1度は調律をしましょう。
鍵盤の重さで悩んでいた方もいるでしょう。しかし、もう悩む必要はありません。
重さの調整はできます。また自分でも、使っているピアノの鍵盤が重いか軽いかをチェックすることもできます。
ここで紹介した10円玉の方法は、あくまでも平均的な重さです。弾き手それぞれ好みもあるので、指が動きやすい重さで調整することをおすすめします。
どのようなタッチが好みなのかをプロに相談して、これからもピアノの演奏を楽しんでください。